駆け抜けた少女【完】

「このっ、ちび助がっ!」

「―――――!」


矢央の背後からドシドシとやって来た力士は、そのまま体当たりを試みる。


熊のように大きな体に体当たりされては、矢央は怪我だけですむかどうかだ。


「クッ! 矢央っ!!」


グイッと、矢央の腕を引っ張った永倉は、その腕の中に矢央を抱き締め地面に転がった。


―――ザザッ!

砂埃が舞い上がり視界がよく見えない。


しかし、力士達には二人がハッキリと見えているので、数人で襲いかかってきた。


人数が、明らかに不利だった。

永倉が矢央に怪我をさせてはならないと頭を抱えた、その時―――



――――ザシュッ!


ピチャッと、永倉の顔に血が飛び散った。


二人の前には、刀を構えた沖田が先程斬った力士とはまた別の力士と戦っている。


「永倉さん、刀を!」

「島田っ! 助かった!」


沖田と島田に助けられた永倉は刀を持ち、矢央の顔を覗き込む。


「ブハッ!!」

「大丈夫か?」

「息…息、出来なかったっ」

「あっ、わりぃわりぃ!」


スーハーと空気を肺に吸い込んだ矢央に、永倉は「さっきは助かった」と、お礼を言って頭を撫でた。


怒られてばかりだった永倉からのお礼の言葉が嬉しい。


「エヘヘ」と、はにかむ矢央。


「そこっ! 動けるなら、動けっ!」

「は、はい! ……て、今の沖田さんですか?」


次々に力士を倒して行く沖田を目で追って、矢央は唖然とした。


「あー…、総司の奴は、刀を持たすと性格変わるからな」

「お、おっかない…」

「つーわけだから、矢央お前は中に戻れ」


店内に戻るように指示を出され、あっさり従おうとしたが、足が止まった。


見えてしまった。


芹沢が刀を抜き、力士を肩から下に斬り捨てたのを。

血飛沫が飛び散ち、力士は音を立て己の流した血溜まりの中に倒れて行く。


ドシャッと倒れた後、沖田が斬った力士と違いぴくりともしない力士がいて

瞬時に察した。



――――死んだのだと。




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