駆け抜けた少女【完】
それを食い入るように見ていると今度は仲間の声がして、そちらに振り返った。
沖田が八角棒で頭を殴られたようで、手で押さえている隙間から赤い血がタラーッと流れている。
―――ドクンッッ!
瞬間、辺りが歪んだ…ようにみえた。
―――宗司郎君っ!
目の前が真っ暗になったのは一瞬で、矢央は沖田のもとに駆け寄る。
「宗司郎君っ! 宗司郎君っ!」
痛みに意識がふらつく沖田の前に、涙を浮かべた矢央がいた。
宗司…郎……?
沖田は頭を押さえながら、矢央を見つめ
「君は……何故……」
「喋らないで! 今直ぐ治すからっ」
目を見開き躊躇う沖田をよそに、矢央は沖田の血に濡れた手を退かせて、自分の手を頭にかざした。
淡く光ったかと思えば、不思議な事に痛みが和らいでいく。
これは、あの時の……。
一度、矢央が襲われた時、それを庇って負傷した藤堂の傷を治したことがあった。
否、あれは治したのではない。
藤堂の怪我を、自分に移したのだ。
だとすれば、また?
「駄目だっ!」
細腕を掴んだ時には、嘘のように沖田の怪我は無くなっていた。
その代わり、目の前で安堵の息を吐いた矢央に耐え難い痛みが襲いかかる。
「ウウッ!」
「矢央さんっ!」
前のめりに倒れていく矢央の体を沖田が抱き止めると、痛みに歪む顔を上げた矢央の口から、信じ難い言葉を聞く。
「…宗司郎君が…無事で…よかった……」
「――――っ!」
宗司郎とは、以前の名前だ。
沖田総司となって出会った矢央が、何故その名前で沖田を呼ぶのか。
そして、矢央とは少し違った雰囲気。
それらが結びつくのは、たった一つの結論しかなかった。
「――――お華…ちゃん…」
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