駆け抜けた少女【完】

それを食い入るように見ていると今度は仲間の声がして、そちらに振り返った。


沖田が八角棒で頭を殴られたようで、手で押さえている隙間から赤い血がタラーッと流れている。


―――ドクンッッ!


瞬間、辺りが歪んだ…ようにみえた。


―――宗司郎君っ!


目の前が真っ暗になったのは一瞬で、矢央は沖田のもとに駆け寄る。


「宗司郎君っ! 宗司郎君っ!」


痛みに意識がふらつく沖田の前に、涙を浮かべた矢央がいた。

宗司…郎……?


沖田は頭を押さえながら、矢央を見つめ


「君は……何故……」

「喋らないで! 今直ぐ治すからっ」


目を見開き躊躇う沖田をよそに、矢央は沖田の血に濡れた手を退かせて、自分の手を頭にかざした。

淡く光ったかと思えば、不思議な事に痛みが和らいでいく。


これは、あの時の……。


一度、矢央が襲われた時、それを庇って負傷した藤堂の傷を治したことがあった。


否、あれは治したのではない。

藤堂の怪我を、自分に移したのだ。

だとすれば、また?


「駄目だっ!」


細腕を掴んだ時には、嘘のように沖田の怪我は無くなっていた。

その代わり、目の前で安堵の息を吐いた矢央に耐え難い痛みが襲いかかる。


「ウウッ!」

「矢央さんっ!」


前のめりに倒れていく矢央の体を沖田が抱き止めると、痛みに歪む顔を上げた矢央の口から、信じ難い言葉を聞く。



「…宗司郎君が…無事で…よかった……」

「――――っ!」


宗司郎とは、以前の名前だ。

沖田総司となって出会った矢央が、何故その名前で沖田を呼ぶのか。


そして、矢央とは少し違った雰囲気。


それらが結びつくのは、たった一つの結論しかなかった。



「――――お華…ちゃん…」










.
< 169 / 592 >

この作品をシェア

pagetop