駆け抜けた少女【完】

この怪我で今頃なら自分が苦しんでいたはずだ、と。

沖田は、片目の見えない矢央の手を引いて歩き出す。


その隣では、繋がれた手を見て首を捻っている永倉がいた。



…ん? ハッ、まさかな…。










「えっと、味噌に大根と…あっ、沢庵もお願いします!」


店主に注文した沖田の後ろから、矢央は口を挟む。


「沢庵は、言われてないよ」


中腰のまま首を振り向かした沖田は、手を口元に翳しクスクスと笑った。


「土方さんの、ご機嫌取りでもしておこうかと」

「土方さんの?」

「あの人、沢庵好きだもんな」



永倉の言葉に「へぇ」と、頷くのだった。



永倉と沖田が半分ずつ荷物を抱えているため、矢央ははぐれないようにと後ろから二人の着物の袖を掴んで着いて行く。


片目が塞がるとは、割と不便だ。

見えないわけではないが、片目だけでは左側が危うく、気をつけて歩かねばならなかった。


「こうして見れば、平和な町なんですよねぇ」

「まぁな。 だが、最近また倒幕派の連中が騒ぎを起こし始めたから、この平穏な暮らしもいつまで続くやら…だ」


そんな物騒な話には一切興味がない矢央は、初めて歩く昼間の京の町の風景に感激していた。


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