駆け抜けた少女【完】
一つの出店に目が留まる。
そこには色鮮やかな簪や結い紐や飾りなど、女子が興味をひくものが置いてある。
「可愛ええお嬢さん、怪我しはったん?」
「え? えっと、まあ……」
「そりゃ可哀相になぁ。 簪、気に入ったんある?」
ふらふらと出店に近寄った矢央に、あまり齢も変わらない女子が声をかけてくる。
店番をしているようだ。
「簪じゃなくて……あっ! この紐可愛いね!」
年齢が近そうなことに気を許し、矢央はその場に膝を折った。
「これ? あんさん変わってはるなぁ。 これ男はんのもんやで」
「そうなの? でも、可愛いよ」
その結い紐は、赤く先きっぽに金の飾りがついたシンプルな物だった。
店番をしていた少女は、嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「これね、ウチが作ったんよ」
「本当に!? 器用なんだね? 私、こんな細かい作業絶対出来ないよぉ」
また、嬉しそうに笑う少女。
良いなぁと、眺めている矢央にその結い紐を渡してくる。
「え?」と、矢央は慌てた。
「あの、ごめんね。 私、お金持ってないから……」
この時代の金を持ち合わせていないと、矢央は名残惜しそうに少女に返そうとするが、それを少女はニコニコと断る。
.