駆け抜けた少女【完】

矢央は、首を傾げた。


「ウチの商品、褒めてくれた人初めてや。 これも、あんさんが使うてくれはったら、嬉しいと思うんよ……せやから、あげる!」


「えー! ダメだよ! あなたが作ったものなんだか、お金とらなきゃ!」


「ええんよ! 貰うてあげて!」

「で、でも〜……」


一生懸命作った物を、タダでもらうなんて申し訳ないと思ってしまう。

こんなに可愛いんだから、自分じゃなくても、きっと誰かがお金を使い買うだろう。


うーん、と悩む矢央の手から、何者かが結い紐を奪った。


「「あっ!?」」


二人は声を揃え、その人物を見上げた。


無造作に髪を結い、無精髭を生やした男が「これを貰おう」と、少女に銭を渡す。


少女は、困り顔で男と矢央を交互に見やる。

矢央は、ニコッと微笑み口パクで「良かったね!」と言った。




「おおきにぃ」


少女から結い紐を受け取った男は、立ち上がった矢央に、今し方買ったはずの結い紐を渡してくる。


驚いたのは、矢央と少女。


状況が読み込めない。


「おまんらの話きいちょると、わしが買ってやりとぉなった。ほれ、受け取れ!」

「へ? いや、今おじさんが買ったやつじゃないですか」


手を振り拒むが、男は矢央の背後に回るとサラッと髪を掬い結っていく。


慌てた矢央は、首がスースーするのを感じながら振り返り男を見上げた。




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