駆け抜けた少女【完】
爽やかな笑顔は消え、スーッと細められた目から狂気を感じずにはいられない。
「見たところ、ちゃんと日本人のようですが」
少女の服装は巫女の装いだったので、沖田が気にしているのは少女の髪色にあった。
さらさらと風に靡く髪が月に照らされキラキラと光るのが、見慣れない沖田には物珍しいのだ。
「? おかしなこと聞くんですね。 私が日本人以外何に見えるの?」
違和感を感じる少女だが、此処は少女がいた時代とは違う事にまだ気づかないでいた。
「そうですね…言葉もしっかりしていますし。
それでは質問を変えます……貴女のお名前は何とおっしゃるのです?」
「名前は…って、普通人に尋ねる前に名乗りませんか?」
「…………」
目を見張る沖田を、ジッと見つめる。
少女は小さな頃から祖父に礼儀正しくと教育されて育ったせいか、その辺りには厳しいものを光らせる。
「……それは、失礼。私は…壬生浪士組副長助勤を勤めております、沖田総司と申します」
やっぱり別人。
自分の名前を尋ねられたということは、少女は全く自分を知らないということになる。
否、元々存在するはずない少女と彼女を同一人物だと判断する方がどうかしているのだ。
それにしても、似すぎている。
少女を見る瞳の奥は、やはりまだ悲しみに揺らいでいた。