駆け抜けた少女【完】
例えどんな誘惑をされても、矢央は此処以外、居場所はないと思っている。
いつしか此処での生活が当たり前になり、この時代の暮らしにも余裕が出てきた。
面倒見の良い近藤には、多摩に残した家族の話や、試衛館時代の話を聞かせてもらい、随分退屈な時間を構ってもらった。
年は全く違うが、物知りで気さくな近藤を祖父と重ねてみていたのかもしれない。
小言が多く叱り方も人一倍キツいが、芹沢が留守中は土方の部屋で良く日向ぼっこをして過ごしていた。
その際もダラダラするなと、小言を言うが、うたたねした矢央に風邪をひかぬように羽織りを被せてくれた土方のさり気ない優しさも知っていた。
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