駆け抜けた少女【完】
「こないなとこで何しとんねや?」
こんな場所とは、埃臭く夏だというのに肌寒さを感じる倉の中だ。
屯所中で矢央の捜索が始まり、観察方の山崎も任務を終えて帰隊すると、近藤に頼まれた。
そして、どこを捜しても見つからないと聞いた山崎が初めに向かった倉に矢央はいた。
隅っこにうずくまっている。
山崎の存在に気づいているが、山崎の問いには答えない。
不振に思った山崎は、もしや眠っているかもと近づいた。
「なんや、起きとんやないか。なら、返事くらいせぇ」
「…………」
ますます殻に籠もろうとする矢央を見かね、山崎は隣にドカッと腰を下ろした。
埃臭い。
「湿気た面やのぉ? 嫌なことでもあったんか?」
一瞬、矢央の目が泳ぐ。
「何があったかは言いたくないなら無理には聞かん」
山崎は、そっと瞼を綴じた。
本当に無理維持はしないつもりらしく、矢央は山崎の横顔をチラッと覗いた。
「……帰りたい」
蚊の泣くような声に、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
山崎が矢央を見た時には、その顔を抱えた足の間に埋めてしまっていた。
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