駆け抜けた少女【完】
何故ならお華が生きていたころ、毎日稽古に明け暮れ、武士に憧れを抱く近藤達を気にしていたからだ。
いつもお華は言っていた「危険な事はせず、ただ健康に過ごして下さい」と。
常に近藤達を心配するお華の顔が、矢央と重なる。
「怖いんです……あの子が、私を私じゃなくするようだから。私は未来で、間島矢央としてお父さんとお母さんのもとに生まれたのに、私は私なのに……
彼女の苦しみが、私を私じゃなくするようで……わけわかんなくて……」
私は、あなた。
あなたは、私。
これが意味することはわからなくても、矢央の中にお華がいるのはわかる。
そして、お華が死んでも尚守りたいと切に思う彼らが危険な目に合うと、矢央は必ず記憶の糸が途切れた。
「私はっ…私として、此処にいたいっ! お父さんにもお母さんにもお祖父ちゃんにも、凄く会いたい! なのに、自分の感情が曖昧になっていくのが怖い……」
お華の想いが強くなるにつれ、矢央自身の感情は薄れていっていた。
最初は早く未来に帰りたいと願っていたはずが、いつからかその想いは薄れていった。
それは、矢央の感情をお華の感情が支配していくからだった。
「みんなにも、誰かに似た私じゃなくて…私として見てほしいのに……彼女に似てなかったら、既に斬られてたんじゃないかとか…私が彼女に近づいた方が、喜んでもらえるんじゃないか……とか……」
とめどなく流れる涙。
不安が、矢央を苦しめる。
怖い、辛い、寂しい。
少しだけ、意味は違っても、お華と被る感情だ。
「矢央君、あなたは我々にどうしてほしいのかな?」
「山南さんっ!」
矢央の体に影が被ると、山南が姿を見せた。
藤堂が驚き名前を呼んだが、それを制すと山南は矢央の肩に触れた。
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