駆け抜けた少女【完】
言葉が足らない不器用な土方の守り方では、何も伝わらないと山南は訴えていた。
土方は、膝に手を付き立ち上がると矢央の側に行き、強引に山南から矢央を奪った。
「土方君っ!」
「歳っ!」
そこにいた全員が、息を呑む。
泣いている少女に対し、まさか説教をするわけではないのか、と。
しかし、予想とは反して土方は矢央を抱き上げると、震える背中をポンポンとあやすように叩いていた。
「もうわかったから、いつまでも泣いてんじゃねぇ」
低く枯れた声に、土方の不器用な優しさが見え隠れする。
矢央は、土方の着物をギュッと掴んだ。
「……総司、とりあえず今日は寝かせてやれ」
「クス…はい、わかりました」
矢央を土方から受け取った沖田は、子供をあやすのは慣れているといったように矢央を抱き上げてニコリと微笑んだ。
「さあさあ、部屋に行きましょうねぇ」
「ああっ! 僕が運ぶっ!」
「平助、誰が運ぼうがいいだろ。 んなことより、こいつ飯食ってねぇんだ、台所に行くぞ」
沖田に飛びかかる藤堂の襟首を掴み、ドタドタと廊下を歩き去る永倉。
「やーおーちゃーんっっっ!」
「うっさいっ!!」
「あはは! では、原田さん参りましょうか」
「おうよ」
沖田達が消えた部屋では、久しぶり近藤と土方、山南が酒を飲み交わしていた。
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