駆け抜けた少女【完】

「お梅さんって、若くて綺麗で。 あの芹沢さんでも、頭が上がらないんですよ!」

「ほお?」


さほど興味はなかった土方も、芹沢が頭が上がらない女というとこに興味を引いた。


お梅は、買い物をした店から代金を支払わない芹沢に催促に来た女で。

二、三度は追い返したが、いつの間にか自分の女にしてしまったようで、七月に入ってからはちょくちょく屯所にやってくるようになった。


お梅がいたら、芹沢の世話は矢央には回ってこず、八木邸にいても手持ち無沙汰なので、こうして前川邸に戻って来たのだった。


「あの芹沢は、女に骨抜きか」

「土方さんは、いないんですか?」

「あ?」


難しい顔をした土方を、矢央はひょこっと覗き込んだ。

その方法が、土方が胡座をかく足の上にゴロンと横たわったので、本人の眉間に更に皺が寄る。


「ダアッ! てめぇは、何処に乗ってやがるっ!?」

「いだっ! 膝枕くらいいいじゃないですかっ! ケチっ!」


足で後頭部を押しのけられた矢央は、ブゥブゥと文句を言う。

「てめぇは、総司の回しもんかよ」

「ん? じゃあ、沖田さんには膝枕してあげてるんですか?」


端正な顔立ちと、お色気ムンムンなダンディな土方の膝枕でスヤスヤと眠る、美青年で儚さのある沖田。


想像して、何故か真っ赤になる矢央を、呆れた様子で一瞥した土方。


「なんで、総司にすんだ。 普通は、男が女にしてもらうんだろうが」

「どっちでもいいじゃないですか。 ねぇー、膝枕して下さいよ!」


ぷくっと頬を膨らまし、土方の袖をブンブン振る。

矢央が泣きながら本心を吐いた日から、矢央は変わった。


本来が甘えたなのか意地を張るのを止めた途端、甘えだした。
そして、これも一つの甘えだ。

日々不安が募るのは変わらない、だからこそ寄りどころを求めている。


それをわかっているので、土方は舌打ちをしながらも、自分の膝をポンと叩いた。


すると、パアッと笑顔を咲かせた矢央はいそいそと歩み寄り、ポンと頭を乗せるのである。


日溜まりのなか、土方に甘える。

土方の眉間の皺も、矢央の穏やかな顔を見ると自然に和らいでいった。



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