駆け抜けた少女【完】

六月初頭に起きた大坂力士と壬生浪士組の乱闘事件の手打ち興行として行われこととなった相撲興行だったが、

京都相撲と大坂相撲は仲が悪く、その和解を兼ね、京都相撲と親睦の深い浪士組が、その際の警護につくことなった。


その期間は八月七日から五日間、祇園北林で行われることとなっており、その際の儲けが浪士組に払われると知り、近藤と土方は相当嬉々した。


この時期の浪士組は好き勝手する芹沢一派を除いては、相当な貧乏暮らし。


だったので、喜んで警護に当たると約束していたのだが。



「武士が興行など情けない! 侮辱もいいとこだ!」

「わっわっ、なに!?」


藤堂が急に叫ぶので、驚いた矢央は沖田の腕に飛びついた。


「近藤さんや土方さんは、元々農家の出だから商売の何が悪いって考えだけど、芹沢さんは根っからの武士の出だからね。 つまり、今回の興行が気に入らないってわけ」

「それに、力士側の態度にもキレたのは芹沢さんだったしね」

しれっと言った藤堂の言葉に続き、井上はあの後の苦労を思い出したのか苦笑いだ。


「あっ…だからか」


今日一日、芹沢の機嫌が宜しくなかったことを思い出し納得した。


てっきり自分が何かへまでもして機嫌を損ねてしまったのかと思ったが、芹沢が腹を立てていたのは近藤達に対してと知り安堵した。


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