駆け抜けた少女【完】
直ぐ近所で賑やかな声がし、矢央の好奇心をくすぐった。
沖田等も壬生寺へと行ってしまい、芹沢の部屋の前の縁側で暇を持て余している。
いいなぁ、私も相撲みたいな。
テレビ中継でなら数回みたことはあったが、この時代に来てからは娯楽というものが無く、近場であるお祭り騒ぎに、矢央も行きたいと切実に思っていた。
だが、ここ数日八木邸から一歩も出ていない。
沖田らとも会っていなかった。
久しぶりにみんなにも会いたいし、芹沢さんもこのままだと本当にカビだらけになりそうだし……。
意を決し、重たかった腰を上げた。
閉まったままの障子戸を一気に開けると、明るい日差しが部屋に入り込み、芹沢は眩しさに目眩を起こす。
明るさに慣れ始めたころ、うっすらと片目を持ち上げた芹沢は
「なんなのだ、いったい?」
「芹沢さん、行きますよ!」
「は?」
何故か、巫女衣装を着た矢央に叩き起こされ、問答無用で部屋から連れ出されてしまった。
「おいっ。着替えもさせぬ、武士に刀も持たせずに何処に連れて行く気だ」
「来ればわかります!」
寝間着姿のままの芹沢を引っ張る。
刀を持たせなかったのは、これから行く先で暴れさせないためで、矢央もその辺りの対策は抜かりなく考えていた。
そして、芹沢を連れてやって来たのは壬生寺。
相撲興行が行われている場所だ。
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