駆け抜けた少女【完】


信じられないっ! 信じられないっ!


前川邸に逃げ帰って来た矢央。

鼻息荒く走って門を潜って来た矢央を、稽古後、井戸水で体を洗っていた永倉が発見すると「おーい」と、声をかけた。



永倉に呼び止められた矢央は、鬱憤を晴らすかのように永倉に駆け寄り先程の出来事を話した。


「信じられないっ! 朝っぱらから、あんなことして! しかも、生娘とか意味わかんないし!」


恥ずかしげもなく言えるのは、矢央が意味を理解していないからだとわかる。


永倉は、洗い流した髪からしたる水滴を拭いながら聞いていた。


「矢央の時代では、生娘とはいわねぇのか?」

「だから、なんですかそれっ」

「なんですかって、言われてもな……」


まくし立てられながら、矢央の興奮を宥めようとする。


だが、この少女は好奇心が旺盛だったと思い出した、話題をどう逸らすべきか悩む。


以前も島原とは何かとしつこく尋ねられた結果、上手く誤魔化したつもりが、危険な行動へと導いてしまったことがあるだけに、下手なことは言うべきではない。


参ったな。 つか、こういった時いつも俺だよな……。




.
< 233 / 592 >

この作品をシェア

pagetop