駆け抜けた少女【完】
信じられないっ! 信じられないっ!
前川邸に逃げ帰って来た矢央。
鼻息荒く走って門を潜って来た矢央を、稽古後、井戸水で体を洗っていた永倉が発見すると「おーい」と、声をかけた。
永倉に呼び止められた矢央は、鬱憤を晴らすかのように永倉に駆け寄り先程の出来事を話した。
「信じられないっ! 朝っぱらから、あんなことして! しかも、生娘とか意味わかんないし!」
恥ずかしげもなく言えるのは、矢央が意味を理解していないからだとわかる。
永倉は、洗い流した髪からしたる水滴を拭いながら聞いていた。
「矢央の時代では、生娘とはいわねぇのか?」
「だから、なんですかそれっ」
「なんですかって、言われてもな……」
まくし立てられながら、矢央の興奮を宥めようとする。
だが、この少女は好奇心が旺盛だったと思い出した、話題をどう逸らすべきか悩む。
以前も島原とは何かとしつこく尋ねられた結果、上手く誤魔化したつもりが、危険な行動へと導いてしまったことがあるだけに、下手なことは言うべきではない。
参ったな。 つか、こういった時いつも俺だよな……。
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