駆け抜けた少女【完】
「悪いんは芹沢はんやない。
芹沢はんは、ああ見えて浪士組のことを真にお考えしとるんや、せやのに……」
そこでようやく、表情が動く。
眉間をキュッと寄せたお梅。
「浪士組が出来たんは、芹沢はんの働きがあってやろ? せやのに、どんどん芹沢はんの居場所は無くなってもうて…。
確かに、やり方は野蛮なとこもあるから誤解を招くけど、あん人なりに浪士組を想ってはったんよ」
現在、浪士組での仕事の判断をしているのは筆頭局長である芹沢ではなく近藤。
そして、その近藤に指示を与えていたのが副長土方だ。
土方は、最初こそ芹沢を立てるための行動に出ていたが、次第に手がつけられなくなった芹沢を邪険に思っていた。
浪士組を作るためにこそ芹沢を筆頭局長にしたが、実際の仕事を受け判断する作業は副長が行う。
そのため、自ら局長の座にはつかず近藤を局長にし、土方は副長勤を自分と山南の近藤一派で固め、そのうち近藤だけを局長の座につかせようという企みが端からあったのだ。
「芹沢はんを見る度、鬼や化け物や罵りはるけど……実際の鬼は一体どなたはんやろねぇ」
「お梅さん……」
「芹沢はんも、むやみやたらに暴れはるんやない。 気づけば後戻り出来んとこまで追い込まれた結果があれや。
うちには、心の隙間を埋めるために、ああせざるおえんかった芹沢はんの方が、余程人らしいと思う」
土方の策にひっかかり、自問自答から抜け出せずにいる芹沢。
その芹沢を愛し、芹沢のすることを正当化しようとするお梅。
矢央は、胸が痛かった。
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