駆け抜けた少女【完】
「芹沢さんっ!」
飛び散る火の粉を浴びているのに、芹沢は熱さを感じていないかのように平然と立っている。
その熱さに矢央は耐えきれず、着物の袖で顔を煽って芹沢の前に立った。
「もう止めて下さいっ! こんなことしたって何の意味もない!」
芹沢は、矢央を見下ろしながら眉を寄せた。
矢央の発言に疑問を持ったのだ。
「このお店に火を放って芹沢さんに、何の得があるんですか!お願いだから、やめ……」
「おかしなことを言うな?」
「……え?」
「間島が言ったではないか」
芹沢は、また大和屋へと目を向けた。
矢央は、何を言われているのか必死に考える。
「このまま近藤達の意のままに操られ、一切の名を残さず終わりを迎えるのを待つのかと」
「は?」
目を見開く姿は、芹沢には見えない。
「それも仕方ないことだと諦めていたが、お前の言葉で目が覚めたのだ」
芹沢は、やっと表情を動かし困惑する矢央を見た。
その表情は、ふっきれたようにも見えたが、やはりどこか虚しさを感じているようで
チクンと、胸に矢が刺さる思いだった。
「最後まで武士として歴史に名を残したいなら、芹沢鴨という武士の威厳を見せろ。 わしは武士として、最後を迎えたい。例えどんな顛末であろうと、その誇りを無くしては意味がないと、お前が教えてくれたではないか」
「嘘だ……」
矢央は弱々しく首を振る。
そんなこと、言った覚えが一切ないと。
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