駆け抜けた少女【完】
自分が芹沢を煽り、こんな酷いことをさせた?
そんなことするはずがない。
記憶にないことを、芹沢に言われた矢央はハッとする。
まさかお華さん…?
ゴクンと喉が鳴った。
最近の胸騒ぎは、お華のせいだったのか。
『邪魔者はいらない』
その言葉の意味をずっと考えていた。
もしそうだとしたら、お華の言った邪魔者とは芹沢鴨のことだというのか?
なんで、どうして? 芹沢さんが何をしたって言うの?
お華さんは、芹沢さんに何の恨みがあってこんな……。
芹沢を追い詰めたのは、土方達だ。
だが、それにとどめをさしたのは…………。
私が芹沢さんを……。
途方に暮れ立ち尽くす矢央の腕を誰かが引っ張った。
グイッと体が傾き、視界に映ったのは藤堂平助。
「藤…堂さん…」
「矢央ちゃんっ、捜したんだよっ! 今まで何処にいたんだ!」
矢央が屯所から消えたと知り、平隊士に混ざり藤堂や永倉、原田達も捜索した。
しかし何処を捜しても見当たらないので、一度戻って来たら矢央が火の粉の舞う中にいた。
慌てて矢央を安全な場所へ移動させようとやってきたのだ。
「芹沢さん、矢央ちゃんは連れて行きます」
「藤堂。 そんなに形相を変える程心配だというならば……」
「?」
矢央を火の粉から守るように抱く藤堂に芹沢は言った。
「時代に流されるな。 守るために、何が必要なことか考えるんだな」
「…何を言って」
「お前には同じ匂いがするのでな、わしからの忠告だ」
藤堂から見た芹沢は、普段のように威張り張った芹沢ではなく、同じ人を愛した男の弱い部分を晒した姿に映って見えた。
「……………」
芹沢の言葉を深く考えることはなかったが、芹沢は走り去る藤堂の背中を寂しげに見ていたのだった。
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