駆け抜けた少女【完】
矢央は、真っ直ぐ近藤を見据える。
きっと下手に色々言っても状況は更に混乱するだけ、ならばやはり簡潔に伝えようとした。
「歴史上に残る話として多少の知識があるだけで、私が何故この時代にいるのか、どうやって戻れるのかも一切わかりません。
ただ言えるのは、無抵抗ですので斬っちゃうとかは無しにして下さい。 私、死にたくないです」
両手を上げて、降参の意を示した。
「――ぷっ! ガハハハッ! 近藤さん、こいつ面白れぇなっ」
「さぁぁぁのぉぉぉっっ!お前は少し黙ってらんねぇのかっ!?」
「んだよ、新八ぃ。 面白れぇもんは面白れぇつって何が悪い? だいたい、はなからこいつを何とかしょうって気はさらさらねぇんだろぉよ。なぁ…近藤さん?」
原田にそう問われた近藤は、腕を組み「うむ」と考え込む。
確かに怪しい。
未来から来たというのも信じられないが、どうしても少女の見た目に惹かれてしまうものがあった。
そして、もしこのまま切り捨てたものなら先程から黙ったまま少女をただひたすら見つめる沖田はどうするか……。
近藤は、ここで一つ提案を持ち掛けた。
「では、こうしよう……。流石に今すぐ、君の言葉を信用する事は出来ない。
だが身寄りのない女子を、物騒な京の町に放り出すというのも武士道が泣くであろう。
だから君が屯所に住まう事を俺が許可するが、その変わりに君には見張りをつけさせて頂くが、それで良いかな?」
近藤の提案を、矢央は真に受け止めていた。
見張りがあろうが、要は此処に置いてもらえるのだから願ったりかなったり。