駆け抜けた少女【完】
だが、どうしても確認したいことがあった。
恐る恐る近藤を見上げる矢央は、今までになく不安そうな顔を見せる。
そして、
「あの、置いてもらえるなら本当に嬉しいんですが……。この鬼の形相で私を睨むお兄さんは、私の寝込みに斬ったり…なんてことないですよねぇ?」
鬼の形相。
お兄さん。
「……歳、怯えさせてどうする」
「俺は何もしちゃいねぇよ」
顔が怖いんだ。と、そこにいる誰もが心の中で呟いたのを土方は知らない。
「取り敢えず、君の部屋を用意しなくてはいけないが。何分我々も無理をおして八木家に世話になっている身だからなぁ………」
どうしたものか、と近藤達が考えるが、矢央だけは別の事を思っていた。
不思議とこの環境に馴染んでしまっている。
不安は若干残るものの、何故だか確信めいているのだ。
ーーーこの人達は多分私を斬らない。
何故だか、懐かしいと思う。
時代を遡る前に見つけた、赤い宝石を見た時と全く同じ感情がわいてでる。
なんでだろう。
わからないけど、とても温かかった。