駆け抜けた少女【完】
あれ……? 痛くない?
来るはずの痛みが一向に襲ってこないと知り、矢央は不思議に思う。
うっすら瞼を持ち上げようとした時―――………
「アホかっ! ボサッとしとらんで、さっさと自分の足で立たんかい!」
「へ、えええっ?」
パチパチと瞬きを繰り返す矢央は、辺りをグルリと見渡した。
洗濯物に足を取られ、本当なら今頃床に転がって血まみれになっていたはずが。
「聞いとんのか、お前はっ!」
「はい! 聞いてます、山崎さん」
観察方の山崎の腕に抱かれていた。
矢央を片腕で支えながら、短刀をお華に向けている山崎。
罵声は矢央に向き、鋭い目はお華に向いているのを山崎の腕の中から見上げていた矢央は、またしても呑気に質問する。
「山崎さんも、見えてるの?」
お華の存在は、言わば幽霊や妖になる。
関わりがある矢央には見えてもおかしくないが、直接関わらない山崎にも見えていることが驚いた。
「あないに恐ろしゅうもん、出来るなら見たぁなかったけどな。 俺、視力良すぎやろか?」
そういう問題ではない。
「冗談言ってる場合じゃないですよ!」
「わーっとるわっ! つか、さっさと退け! ええ過激片手で支えんのは限界や」
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