駆け抜けた少女【完】

「あんたが言う、邪魔者ってのは誰のことや?」


短刀を握り締め、鋭い眼光を送る山崎は忍の表情だ。


一人だと、あれだけ恐怖を感じたのに山崎がいるというだけで、心細さが薄れていく。


山崎の細い背中が、今はやけに大きく感じた。



「……彼らを奪う者全てよ」


奪うって何から?


言葉の意味を探ってみる。


そこで、矢央はある事を思い出した。


「芹沢さん……」

「気がついたんですね。
そうあの方は、彼らを汚す……だから、いらないの」


芹沢が大和屋を撃った時、言っていたのだ。


"お前が教えてくれただろう"と。

芹沢は矢央が、武士の誇りと威厳を持てと言ったと言ったが、矢央には、そんな記憶はない。


そして、ほんのたまにだが、矢央には記憶がない時があった。


「もしかして、お華さん私にのり移って…る?」


その考えが一番しっくりした。

正解だったのだろう。


お華は、真っ赤な口元をニコッと歪ませていた。


だが、その大きな瞳は笑っていなかった。


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