駆け抜けた少女【完】

力士との乱闘中、沖田は頭部を殴られ傷をおった。


その時、確かに矢央は"宗司郎"と呼んだのだ。


「その名を呼ぶ者がいるとすれば、お華だけでしょう。私はあの時、彼女の中にお華が見えた……」

「そんなことがあったのか」


近藤は、沖田の肩を数度叩いた。


「ですから、その話は真実でしょう。 それに、矢央さんの不思議な力だってあるんです。
今更、何が起きようと驚きませんよ」


お華が出現することによって、一番沖田が動揺するだろうと思っていた土方だったが、予想以上に沖田は落ち着いていた。


中には、お華の話をまだ受け入れられないものも少なくないが、とりあえず土方は話を進めようとする。


「総司の話にも出たが、今夜はお華のことについて集まってもらったわけじゃねぇ。
矢央の今後の役割についてだ」

近藤と山崎だけは、少しだけ内容を聞いている。


聞いているからこそ、これから土方が話す内容が賛否両論するだろうと息を呑んだ。


山崎は土方が決めることに異論などないが、近藤にいたってはまだ承知の域に達していないのである。


「んで、矢央がなんだって?」


永倉が土方を促した。


「この度、新たに隊を設置することにした。
次第に危険な任務が増えるだろうと考えてだ」


その言葉に永倉と原田、山南は眉を歪めた。


嫌な予感が脳裏を過ぎる。


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