駆け抜けた少女【完】
矢央は此処を離れては生きていくことは出来ない。
行く場所もない、知識もない少女を放り出すなんて考えは最初からないが、だからといってそれが匿う理由として通用するはずもない。
何故なら、矢央はあまりにも複雑すぎるからだ。
矢央の素性を説明して、いったい誰が信じるのか。
彼ら以外は、きっと矢央が嘘をついていると思うに決まっているし、それが当たり前だ。
「僕は……矢央ちゃんを出来ることなら、この手で守りたいと思ってる」
グッと湯呑みを握る藤堂。
「だから、どんな風であれ矢央ちゃんが此処にいる正当な理由が出来るなら、僕は賛成するよ」
「……それでもし、あいつが傷つくことがあってもか?」
「それでもだ。遠く離れた場所にいられたら……きっと、守ってやれないから」
フッと笑い、お茶を啜る。
永倉は、ドサッと床に寝転んで藤堂に背を向けた。
「新八さん……」
「なんだー? お前の言いてぇことは、ちゃんとわかったぞ」
「僕、あの子が好きなんだ」
「……………」
穏やかに聞こえて、やたら挑発的だなと永倉は感じ苦笑いした。
「俺に言っても意味ねぇな」
「……ん。 そうだね」
――――ズズズ……
お茶を啜る音を聞きながら瞼を閉じた永倉は、ますます複雑になる状況に考えるのを放棄したい気分だった。
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