駆け抜けた少女【完】
廊下に出ると待っていたのは少し癖のある髪を垂らした青年。
沖田や藤堂の女性的な美顔とはまた違い、男らしさ溢れた美丈夫だった。
名は何と言ったか。
近藤の部屋にもいた男だけど、そういえばまだ名前を聞いていなかったことに気づいた。
「腹減ったんだろ。食わせてやっから着いてきな」
にやっと口角を上げた男。その表情はとても優しい。
矢央は彼の数歩後を着いて行く。
歩く度にギィギィと独特な音にドキドキした。
夜更けに台所に行くのは何故かいけないことのように感じるからだ。
カタン。
「お前のためにとっといてほしいって総司が女中に頼んでおいたんだと」
「総司……あっ、沖田さんですか?」
台所に着くと男は握り飯を差し出した。
「そう、感謝してやれよ?此処では食いっぱぐれは日常茶飯事だ」
「じゃあ、明日朝一番にお礼します」
いただきますと手を合わせた矢央を、やはり優しい眼差しで見つめる男。
「おいし。 時代は違っても、味は変わらない。 なんだかホッとします……」
一瞬見せた悲しげな瞳。
「そのなんだ…帰れるといいな」
「気休めはいいですよ。どうせ信じてくれてないでしょ? みんなも、もちろんあなたも」