駆け抜けた少女【完】

土方は自嘲するように笑った。


俺は迷ってるって言うのかよ…。


自分が矢央を利用できると企んだのに、何故か後ろめたさを感じた。


これが、矢央にとって"逃げ場"を無くさせるためだからか。


こいつを奴らに奪われる訳にはいかねぇだろ……。


矢央を入隊させることにより、僅かに亀裂が入りかけているが、それよりも敵に矢央の力が渡ることを避けたい。


敵に強みを与えてはいけないと、今は少女の未来よりも土方は壬生浪士組の未来を取った。



「私は、どんなことでも近藤さん達に恩返しが出来るならやりたいです」


恩返し、ね。


「わかった。 ならば、今より間島矢央を正式に壬生浪士組の入隊を認め、救護隊の配属を任命する」

「はい!」


ハッキリと頷く矢央を見て、意外だと感心した土方。


ただ泣いているばかりの少女ではなく、強い意志を持っているようだと。


やはり、見る目に間違いはない。


矢央は使えると確信した。



「それでだ、お前の直属上司に…」


土方が視線を向けた襖が音もなく開いた。


「山崎さんだったんだ?」

「………」


山崎が土方に頭を下げた後、部屋に入ると矢央に疑問の眼差しを送った。


「だったって、どういう意味や?」

「いや、部屋に入った時から隣の部屋に誰かいるのは気配でわかってたんで」


誰かまではわからなかったけど。と付け加えながら笑う。


なんやこいつ…ただの泣き虫なだけやないんかい。


「……で。話は戻るが、お前の上司に山崎をつけた。山崎には仕事が増え、多少負担をかけるかもしれねぇが…」

「いえ。 光栄ですよって」



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