駆け抜けた少女【完】
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先程から背中に突き刺さる視線が痛かった。
自室で文机に向かって、山南の書いた字を手本にして勉強していた矢央は、集中力を削がれ、カタンッと筆を置いた。
「……永倉さん、その殺気籠もった視線止めて下さいよ」
「……殺気なんて込めてねぇよ」
障子に背中を預け、呆れている矢央から庭へと顔を向けた永倉。
矢央が部屋に戻って来た時には誰もいなかったのだが、いつの間にか永倉はいた。
いつまで経っても、そこを動かないので、どうやら非番らしい。
「でも、何か怒ってないですか?」
永倉の殺気が何も自分へ向けられたものだとは思ってはいない。
だが永倉は、何か矢央に関することで腹を立てているように感じてしまうのだ。
私、また何かやったっけ?
矢央にとって、壬生浪士組の中で恐怖を感じる相手は二人いる。
一人は土方、もう一人が永倉なのだ。
何故かいつも二人からばかり怒られている。
なので、この二人の機嫌が悪いのは矢央にとってあまり宜しくない状況だと言えた。
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