駆け抜けた少女【完】

癖のかかった前髪が、永倉の動作と共に揺れる。

膝を立て、額を乗せた。


少し暗くなった視界。

まるで、今の自身のようだと永倉は笑みを浮かべた。



土方が決めた事は絶対なのだと、いつの頃からか決まり事のようになった。


副長なのだから、仕方ないのないことだとは理解しつつ何の相談もなしとは受け入れ難い。



「矢央、お前は本当に壬生浪士組に入って良かったのか?」

「……知ってたんですか?」


キョトンと、小首を傾げる矢央。


「ああ…。 事前に聞いていたからな」

「正直…に言えば、隊に入るのが良かったかはわからないです」


手を畳につけて、体を永倉へと向けた。

気配に気づいた永倉は、ゆっくりした動作で顔を上げ、矢央を見つめる。


「でも、何もせず、ただジッとみんなの帰りを待つのは嫌なんです。 何か一つでも役に立てたら良いと思って」

「…んな、簡単に言うんじゃねぇよ」


グッと、拳を握り締める永倉の手の甲に幾数の筋が浮かぶ。


「いつ死に直面するかわかんねぇんだぞ。 お前は、まだその恐怖をわかっちゃいねぇ」

「簡単に決めてなんてないですよ! ただ、本当に力になりたくて……」

「それが、舐めてんだよ。
俺達の力になるだ? ちんめぇ餓鬼んちょに、いってぇ何が出来る?」

「それはっ……」


どうして、永倉がそんなに怒っているのかわからなかった。


怒られるようなことをしたとは思えない。


足の上に置いた手をギュッと握り、落ち着かせようと浅く息を吐いた矢央。


「何も出来ないかもしれない。
でも、もう一つのことからみんなを守れるのは確実に私だけだから……」



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