駆け抜けた少女【完】
「矢央さぁ〜ん! あっ、いたいた」
緊迫した空間には合わない、のほほんとした声の主が廊下からヒョコッと顔を覗かせた。
そのせいで、永倉へ話しかける頃合をすっかり逃してしまう。
愕然として、空気の読めない登場人物に「なんですか?」と尋ねた矢央。
沖田は、ニコッと微笑み手招きしている。
「良いものあげますから、いらっしゃいな」
「良いもの?」
少し体の位置をズラし、沖田が背中に何か隠しているのを確認した。
何だかろうか(?)と、小首を傾げながら膝を畳に擦らせながら沖田に近づく矢央。
真下にやって来て沖田を見上げる矢央の姿は、まるでご主人様の指示を待っているかのような子犬のようで、沖田はその愛らしさに瞳を細めクスッと笑った。
「ささっ、こちらですよ〜」
沖田が後ずさりすれば、矢央はよつんばになったまま沖田の後を追う。
そして、また沖田は愉快だと微笑む。
それを繰り返しているうちに、永倉だけがその場にポツンと一人になっていた。
「………バカだ。 ありゃ、間違いなくバカだ」
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