駆け抜けた少女【完】
『信じたいと思ってるよ』
その言葉にか握り飯になのか、矢央は喉を詰まらせる。
ギュッと胸が締め付けられたのだ、男の言葉に。
「今日や明日でっつうのは無理だろうがよ、少しずつ分かっていきてぇよ、お前が何者なのかってのは……」
その言葉には二つの意味があった。
間島矢央自身も知りたい、だが彼女と似すぎた不思議な少女のことも知りたい。
複雑だった。
少女が幕末へやって来たのも、少女と彼女の繋がりも。
「なんなんですかねぇ……」
「あ?」
「私の時代では過去や未来に行く…なんて非現実的な事なんですよ。 有り得ないんですよ」
「はっ、そりゃ―…こっちでも変わらねぇだろうよ」
人間が時空を移動する。
それは例えば空想の世界でしか出来ないような事で、もし現実にそんなことがあるなら世の中は大騒ぎしているだろう。
「でも不思議なんです……」
「…………」
男はにこっと微笑んだ矢央を横目に見る。
「私、知ってるような気がする。 この時代も、みんなの事も……」
知ってるような気がしてならない。
どこか懐かしい、その気持ちだけは偽りないものだから。
「そういえば、お兄さん…お名前は?」
矢央はクルッと首を回し男を見た、だが見られている男の目は動揺に揺らいでいて。
知っている?
自分達を、この少女は懐かしいと感じている。
男はこの少女にも自分達にも何かが起ころうとしているような気がして堪らなくなる。