駆け抜けた少女【完】
永倉はドンッ!と、壁を殴った。
矢央同様、このことについて納得できないでいたからだ。
永倉は近藤一派の中で、最も芹沢に近い人物であった。
神道無念流という剣の流派が芹沢一派と永倉を同門として繋ぐ。
絆があるわけではないが、芹沢も同門として永倉には良くしてくれていた。
芹沢の暴君ぶりに呆れはしたが、こうなる前にどうにかしなればならないと思い、芹沢に忠告をした。
それが土方には見抜かれていたのだろう。
だから腕が立つ芹沢の暗殺計画に、壬生浪士組の中で剣の腕が一、二と言われる永倉が入っていないのは。
何時何処でどうやって芹沢がやられるのか、永倉の耳には一切入らないようにされていた。
土方が選んだ少人数で行われる計画なのだ。
「忘れろ。 言っただろ、どんな理不尽なことが起きようが、此処にいると決めた以上…近藤さんの下にいろと」
それは永倉自身が、自分に言って聞かせているようだった。
今この計画に気づき反発しようものなら、きっとその者も消されると。
これは暗殺、誰にも知られてはならないのだ。
「じゃっ、知ってて…止めないのっ?」
「ああ……」
永倉は矢央を見る事が出来なかった。
純粋に仲間を思いやれる矢央と、志のためならば仲間ですら切り捨てる自分達。
「そんな、の…て…酷いよ。
芹沢さんは確かに悪いことするかもしれないけど……でもっ、優しいとこだってあるもんっ!」
「わーってらぁっ! けどな、今更なんだよ…何もかも…これは、近藤さんが止めろと言って止められるもんじゃねぇんだ」
会津公の下した処分を、近藤一人がどうにかするなんて所詮無理なこと。
永倉は何度も矢央に言う。
"頼むから大人しくしてくれ"と。
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