駆け抜けた少女【完】
壁に押し当てられた大きな拳に幾つもの筋が浮かび上がっている。
矢央は、永倉も必死に耐えているんだと知った。
どちら側にも中途半端な己に耐えているんだと。
どうしたらいいのか分からない。
矢央は永倉を押しのけ芹沢のもとに行くべきか。
心は芹沢のもとへと焦る。
しかし必死に止めてくれる永倉を、せっかく仲直りできたのに、また……と心が落ち着かない。
そんな矢央の揺らぐ心に一気に熱を与えるモノが前を横切った。
――――ピクッ!
異様な感覚が背筋に悪寒を走らせる。
まさか……まさか、とグッと握った拳がブルブルと震えた。
そして矢央は永倉を押しのけ、廊下に飛び出した。
「……っ矢央!?」
違う違う違うっ! まさか、芹沢さんを…そんな…。
矢央が廊下に出て角を曲がったそこに、ユラリ立つ人影。
それは――………
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