駆け抜けた少女【完】

「……お華…なのか…?」



飛び出して行った矢央の後を追って来た永倉は、矢央と対面する人影を見て眼を見開いた。


薄暗い廊下の奥に淡い桃色の着物を着た見慣れた少女が立っているのだ。



「…永倉さんも見えるの?」

「あ、ああ……」



永倉は言い知れぬ寒気に襲われた。


(お華は確かに、あの時死んだはずだ……)


矢央をチラリと見やる。

矢央の姉妹とかではないのか、と浅はかな考えが浮かぶ。


「永倉さん、お久しぶりです」

「………っ……」


やはり、お華だ。


ニコッと愛らしい微笑みと、澄んだ声は幾ら時が経っても忘れはしない。


こうしてお華と矢央が一緒にいるのを目の当たりにして、似ているとは思うが、少し雰囲気が違うとわかった。


髪の色や、生きた時代の違いからくる身を纏う雰囲気そのものが若干違うのだ。


「矢央さんも、お久しぶりね」

「また…出て来たの? 石は屯所に置いて来たのに」

「あの石に私の魂が宿っているからと言って、あれがある場所にしか現れないなんて誰が言ったのですか?」

「……っ……」


屯所の押し入れに荷物と一緒に保管したままの"赤い石"、以前二人が対面した時に打ち明けられた真実は、あの石にお華の魂が宿っているということ。


矢央をこの時代に呼ぶために使い切った力を、今は石の中で回復させようとしていたはず。


だから安心していた。

いつかまたお華とは争う時が来るかもしれないと思っていたが、まさかこんなに早いとは思っていなかったのだ。


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