駆け抜けた少女【完】
土方が戦陣をきる。
屏風ごと、刀を芹沢に突き刺す勢いで飛びかかったのだ。
――――ガタンッ!
……手応え…なしかよ。
冷や汗が額を伝う。
人を刺したという感覚が伝わってこない。 変わりに、キンっと金属がぶつかり合った感覚ならばあった。
「チッ……」
しとめ損なった、と土方に緊張感が走る。
「あー…うるせぇと思ったら、土足で部屋に上がり込んでんじゃねぇぞ……土方」
「なっ………」
何故だ。 顔は見られていない。
それに声だって漏らしていないのに、何故芹沢は土方だと気づいているのか。
慌てて刀を引き、構えの体勢に入った。
屏風を押しのけ、のそっと身を起こした芹沢。
不気味なほどの緊張感が辺りを漂っている。
土方の脳裏には、芹沢に計画がバレていたのか(?)と思考が過ぎったが、そんな素振りは一切見られなかった。
誰にもバレないようにと、少人数でこの計画を進めてきたのだ。
バレていたはずがない、と。
「どうした? かかってこねぇのか……」
土方と向き合い一向に動きが見られなかった。
そこへ、芹沢目掛け険先がサッと伸びてくる。
「……沖田か」
「芹沢さん、大人しく死んでいただきます」
一切動揺を感じさせない沖田。
沖田にすれば、計画がバレていようがどうでもいいことだった。
芹沢を殺せ。 土方に言われた、それが沖田の全てだったから。
刀を引き戻し、顔の横に刀を構え浅く深呼吸する。
「ガキにやられる程、俺は弱かねぇぞ」
「さあ…。 ならば、試してみましょうか」
雷が落ちた。
ピカッと光った瞬間、沖田の顔がギラリと青白く映り、それが始まりの合図となった。
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