駆け抜けた少女【完】


「来たな………」

「な、ぜ……あなたが?」


両手を広げ、沖田と芹沢の間に立ちはだかったのは矢央だ。


「すまねぇっ、止めたんだが」


続いて芹沢の背後からやって来たのは原田に山南。

土方は両者に睨みをきかす。


益々ややこしくなった。



「矢央さん……」

「止めて下さい。 どうして仲間同士で殺し合いなんてするんですかっ」

「テメェには関係ねぇ! そこを退けっ!」

「嫌です! 嫌だ嫌だ嫌だっ!」

ブンブンと頭を振り乱す。

芹沢を守ろうと必死の様子に、沖田、山南、原田の胸は打たれた。


「芹沢さんはっ、殺さないで!
芹沢さんを殺す理由は……」


「芹沢さん、あんたは分かってんのだろ?
あんたが何故こうなったのか、わかってんだろ?」


芹沢にだけ問いかけているのではなかった。

知識の有る無し関わらず、芹沢がこうならなければならない理由など、壬生浪士組のものなら大半が分かるだろうと問いかけている。


「あんたは暴れすぎた。 此処にはもう、あんたの居場所はねぇんだよ。 あんたも武士なら覚悟を決めやがれ」


土方の言い方では、死を受け入れろと言っているようなものだ。

それを止めに来た矢央の目に涙が溜まる。


「それは……芹沢さんの、せいじゃ…ないっ!」

「ああ゛っ?」


両手を下げ、矢央は芹沢の前に腰を沈めた。


苦痛を浮かべた表情で芹沢を見つめる矢央。

本当の芹沢は、土方同様とても不器用で、傲慢だけど優しさもある人間だ。

だがそんな芹沢を更に拍車を加えたのは、武士としての誇りを坂手に取り弱さに漬け込んだ邪悪なものによるものだ。


矢央は、それが誰によってし向けられたことか分かっている。

だからこそ、止めたかった。

自分を可愛がってくれた芹沢を、同じく可愛がってくれている皆に殺させたくないのだ。


どちらも、矢央にとっては大切な存在だから。


.
< 369 / 592 >

この作品をシェア

pagetop