駆け抜けた少女【完】
きっと怒られる。なんて思い込んでいた矢央。
だが起き上がって一に降ってきた言葉は、怒鳴り声ではなく「プッ!」と思わず吹き出された声だった。
なんだと顔を上げれば、沖田が口元を掌で隠している上にプルプルと微かに肩を震わせているといった予想していなかった光景が待ち受けていた。
コテンと首を傾げ、何故そんな態度をとられるのかわからないと表現する。
外に目を向ければ、例の三人までも肩を震わせていて、
「だっ…は…駄目だって笑っちゃ…くふっ!」
「平助も笑ってんじゃねぇか!
あーっ、こっち見んなって!ブハッ!」
「左之っ左之っ、ボーンって…アハッ!」
いったい何が笑える。
状況がいまいち掴めない矢央に、涙目になりながら沖田は手を伸ばした。
ふわりと優しく頭を撫でられ。
「鳥の巣。と、言ったとこですかねぇ…」
「鳥の巣?あぁぁぁっ!?」
ようやく何に対して笑われているのか察した矢央は顔を真っ赤にして飛び上がった。
その勢いのまま裸足で庭に降り立つと、ダ―――ッと井戸まで走って行き、三人が顔を洗おうと汲んでいた井戸水を頭からバサッと被ってしまった。
そんな矢央の行動に、笑ってはいけない事だったと確信した四人であった。