駆け抜けた少女【完】


カタカタカタと、震えが収まらない芹沢はゆっくりとした動作で矢央を見た。


芹沢を見る双眸に光は宿っておらず、顔色も青白い。



芹沢は、ふっと鼻を鳴らした。


「ゴフッ……貴様、なに…もんだっ…」

「…………」

「最後っまで…名を名乗らね…ってか……グハッ!」


ガタンッ! 音を立て芹沢は倒れ込んだ。


ドクドクと脈が激しく打つ。

死が近いと悟った。


「矢央さんっ、なんてことっ」


矢央の手から胸にかけて芹沢の血が飛び散っている。


あれほど芹沢の暗殺を止めていた矢央が、何故芹沢を突いたのだと信じられないものを見たような思いで沖田は矢央に駆け寄った。



「矢央さんっ!?」


血を浴びた小さな体を覗き込む。


ふらりと顔の向きを変え、沖田を見た矢央は芹沢に向けた冷め切った表情ではなく、色を宿した艶のある笑みを見せた。


「……!」


見覚えがある。

沖田の喉が鳴った。


「……これで邪魔者は消えたね。 惣司郎君」

「お華ちゃん……」


沖田、土方、山南、原田に戦慄が駆け抜けた。


今目の前にいるのは、間島矢央ではない。

二年前に命を絶った、お華だ。

「土方さん、これでいいですよね? これであなたと近藤さんの夢が果たされる。
どんなに待ったことか……。
ずっと、ずっと、みんなの力になれる日を待ってた」

「お華……本当に、お前が?」

「矢央は? 矢央はどうなって…」

「あの子は私、私はあの子。 今は、私がこの体を借りてるの。あの子は、五月蝿いからここで眠ってもらってる」



原田に笑みを向けたお華は、そっと赤く染まる胸元を押さえた。


皆、言葉が詰まった。

何がどうなっている?

これは夢か、現実か?

本当に死んだはずのお華が、矢央と繋がっていたのかと信じられないが、信じるしかない。


「ハッ…ウヴッ……」


現に、あの矢央が芹沢を刺した。

芹沢の命は、もう数分と保たないだろう。


どちらにせよ、土方の計画は成し遂げられるのだ。


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