駆け抜けた少女【完】
ギシギシと廊下の軋む音に、矢央は慌てて布団に潜り込む。


幹部達が会議を終え帰って来たのを知り、何故か寝たふりをしてしまう。



「三名を明朝にだって。 てことは、僕明日寝不足決定だね」

「平助、矢央に聞かせる話じゃねぇだろ」

「あっ―…。 良かった、ちゃんと寝ててくれたみたいだ」


障子戸がピシャリと閉められ、永倉、原田、藤堂の三名が矢央の寝息を聞き安堵する。


三人分の布団が敷いてあるのを見て、原田はドサッと座ると小さな体を丸めた矢央を見つめた。


「また、悲しませちまうのかねぇ」

「左之……」

「こいつには仕方ねぇことだの一言で終わらせちまうことが多いからよ。 こんな小ぃせぇ体で、いろんなもんを耐えさせちまってんだよな」


矢央の頭に触れかけた手を、原田は触れることなく引っ込めた。


自分の掌を見つめ、あの日、芹沢暗殺の日に向けられた矢央の悲しみの色に染まった瞳を思い出すと胸が痛む。


この場にいる誰にも言えない、原田の複雑な心境だ。



「そういったことも含め、こいつは強くならなきゃいけねぇんだよ」


ふと永倉が口した言葉に、着替えを済ませた藤堂が振り返る。
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