駆け抜けた少女【完】
山南敬助。
彼も土方同様に壬生浪士組の副長で、その優しげな眼差しと温厚な性格、剣術にも文学にも優れ、局長の近藤より年上なのもあり良き相談役にもなっている。
山南はボケッと自分を見上げている少女を愛しむように見つめ返した。
優しそうな人。 それが山南の印象だ。
「えっと……」
「そう言えば紹介がまだだったね。 私は、山南と言います」
「あっ! 私は、間島ですって…ご存知ですね」
今し方名前を呼ばれたのだったと、矢央は笑みを浮かべた。
昨晩も近藤の部屋で顔合わせをしていたので、山南の顔だけは見覚えがあった。
あの場に居合わせていた者の中では、一番優しげな雰囲気で矢央の記憶に一番残っていた人物でもある。
「さあさあ、いつまでも濡れた服を着ていては風邪をこじらせてしまうよ」
そう言って、矢央に着替えを渡す。
「あれ? 山南さん、どうしてご存知なんです?」
「ふふっ、それはね沖田君…」
何故矢央がずぶ濡れなのを知っているのか問うた沖田に、にこっと笑って見せると山南は庭先を指差した。
丁度曲がり角になり、柱に身を隠していたのは例の三人。
「「あっ……」」
見つかった永倉、原田、藤堂の三人は慌てて走り去ってしまった。
「クスッ。 彼らも、反省しているようですねぇ」