駆け抜けた少女【完】
傷口を押さえた時、ある人の言葉が脳裏を過ぎった。
『その力を使わないでほしい』
いつか藤堂に言われた、とても悲しげな表情で"守るから"と。
「……ごめんね。 平助さん…」
どうしても助けたい。
消えかけている目の前の命を、救えるかもしれない命を見逃せば、きっと後悔する。
「直ぐに助けるからねっ」
苦しみに耐える楠に呼びかけた後、矢央は手に意識を集中させた。
今まで藤堂や沖田の傷を治した時は無我夢中で、どうしたらそんな力が発動するのかもわからないままだったが、
ただ助けたいという想いを手に込めた。
すると淡い光が二人を包み込んでいった。
そして、矢央の意識はそこでプツリと途切れたのだった――……。
その様子を見ていたのは、ただ一人。
闇色に眼を染めた少女だけ。
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