駆け抜けた少女【完】
第三話*坂本龍馬
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―――ドタンッ!!
夜が暮れた静けさが広がる屯所内に、一際大きな音が響いた。
それは藤堂に蹴り飛ばされた原田が、襖事倒れ込んだ音で、暴れ足りない藤堂を永倉が押さえ込んでいる。
「……ってぇな」
蹴り飛ばされた方の原田は、防御をし損ねたのか蹴られた腹をさすりながら身を起こした。
何故二人がこのような状況になっているかは数時間前に、その理由があった。
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雨が振ってきた。 原田は水菜畑に置き去りにして来た矢央が気になり、また外へ出たのだが、そこには矢央の姿は無かった。
それどころか、先程原田が斬り捨てたはずの楠の姿も無くなっていた。
原田はあの後ずっと門で矢央の帰りを待っていたので、矢央が屯所に戻っていないのは己が一番分かっている。
――――矢央がいなくなった。
それは瞬く間に屯所内に広まった。
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「…ンでだよっ! なんでそんなこと、矢央ちゃんに言ってんだよっ!!」
「平助っ、止めねぇかっ!」
まだ原田に向かっていこうとする藤堂を押さえ込む永倉と、無言を貫く原田。
矢央に関わりある数名の幹部が、近藤の部屋に集まっている中での藤堂と原田の出来事であった。
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