駆け抜けた少女【完】
女中に用意をさせた着物はちゃんと女物で、早朝賄いの支度をしにやって来た女中に近藤が手配させたものだった。
着物の着方を現代人の矢央はあまりよくわからないが何となく適当に着てみれば……
見事、グチャグチャ。
「あのぉ……」
顔だけを覗かせるようにして障子を開けた矢央に気づいた山南は首を捻らしたが、直ぐに矢央が困っているものを察した。
「おやおや、着付けが出来ないのかな?」
「……すみません」
「女子なのにわからないのですか?」
沖田は当たり前のように聞く。
が、その当たり前は矢央には難しい。
何せこの時代の常識なんて、つい昨日までは知らないことだから。
「……山南さん、お手数かけて申し訳ないんですが教えてもらえないですか?」
沖田を無視した矢央。
山南は、自分がかと指を指した。
着付けを教える事は出来るが、やはり年頃の女子の着付けとなると抵抗を感じずにはいられない。
山南はチラッと沖田を見た。
ーーーー沖田君には、頼めないか。
沖田はこの頃二十歳で、矢央は十六。
年が近い沖田に頼むよりは自分の方が良いと判断されたと察すると、山南は障子に手を当てた。
「では、失礼するよ」
「お願いします」
真っ赤になる矢央と山南が部屋の奥に入ってしまい、一人残された沖田はじっと障子を見つめていたのだった。
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