駆け抜けた少女【完】

険しい表情をしていた矢央を見て、相当傷が痛むのだろうと勘違いした坂本はガバッと勢いよく布団を捲った。


「なっ……なんですかっ!?」

「サラシを替えた方がええかもしれん。 膿んだら大変じゃ!」

えっ? 坂本さんが替えるの?


それは困る。 非常に困る展開が起ころうとしているのを感じ、矢央は頭を支えていた枕を坂本に投げつける。


「痛いっ! い、痛いぜよ! なにするがか、矢央!」

「何するは、あんただよっ! 変態か、エッチ!」

「え、えっち? なんじゃそれは」

「さ、さぁ? 龍馬にわからんことが、わしにわかるわけないぜよ!」


聞き慣れない単語に、坂本と以蔵は顔を見合わせて首を傾げ合う。


そんな二人を、フーッフーッと猫のように威嚇する矢央だった。


しかし困った。 と、自身の頭を撫でる坂本。


「清潔を保つために、マメに変えるんがええき。 しかし、今は、わしらしかおらんからのぉ」


「ん? そういえば、誰が私の手当てしてくれたんですか?」


坂本の言い方からして、此処には矢央以外に女性がいるということか(?)と、目を輝かせる。

もしかしたら、お梅以来の女性の知り合いが出来るかもという期待があった。


そんな矢央の期待は裏切られることはなく、坂本は胡座をかいた膝にバシッと両手を置くと満面の笑みで答える。


「安心せぇ! おまんの世話をしちょったんはな、わしのちとした知り合いぜよ! これまた、おまんとはまた違った魅力がある女子でな!」


何だか話が長くなりそうだと、小さく息を吐いた時、ポスポスと襖を叩く音に坂本の話は中断させられる。


そして、襖を開けて顔を見せた人こそ矢央が期待した人物であった。


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