駆け抜けた少女【完】



「暇だーっ! 暇、暇、ひ〜ま!」

「……うるっさいぜよっ!」


寺田屋の二階窓からは、船の出入りが見えた。

活気に満ちた光景に、傷もすっかり癒えた矢央は退屈だとただをこねる。


「おまんは、最近まで寝込んでたやろうが!」


隣では、岡田以蔵が眉をしかめて溜め息を吐いた。


今回の傷の治りは遅く、新選組を離れてから三カ月の殆どを布団の上で過ごすはめになった。

不思議だった。 以前の傷は三日も経てば治っていたのに、何故今回は三カ月も寝込んだのだろうかと。


「でももう治ったよ。 ねぇ、以蔵さん、散歩しない?」

「せん!」

「即答ですか……」



チッと舌打ちすれば、以蔵に睨まれたが気にしてないとばかりに矢央は外に眼を向けた。


頬を撫でる空気がヒンヤリと冷めていて、もうすっかり冬の訪れを教えてくれる。


みんな、どうしてるかな?


気丈に振る舞いながらも、その心は色んなことを抱えている。

―――フサ……


白い息を吐いた時、背中が温もりに包まれ顔を上げた。


「風邪を引かれちゃ困る。 それを着ときや」


真冬だというのに戸を閉めない矢央を気遣い、以蔵は袢纏(はんてん)を肩にかけてやる。

綿が入ったそれは、ぬくぬくと矢央の体を温めた。


「ありがとう」


ニコッと笑いかけると、以蔵は鼻先をかきながら照れたのか顔を背ける。


人斬り集団と言われる新選組も、人斬り以蔵と言われる以蔵も、根は優しい男だと少女は思う。

ただ目指すもののために、その尊い命をかけ戦うのだ。


「やっぱり、散歩行く!」

「はっ!? お、おい! 待つぜよ!」


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