駆け抜けた少女【完】

冷たい風が頬を撫で、ブルッと体を震わせる。

そんな矢央の隣では言わんこっちゃないといった風に溜め息を零す青年、以蔵が寄り添って歩いていた。


結局、半ば強引な形で町に出たのだが目的もなくただ歩いているだけだった。


「おい、何処か行くのか?」

「別に。 散歩だって言ったじゃん」


矢央の機嫌は斜めなようで、その口振りは若干棘がある。


なにを怒ってるがかわからんっ!


今まで女子と二人でいることが少なかった以蔵は苛立ちを覚えた。


龍馬め、早く帰ってくるぜよ!


「此処って確か初めて坂本さんと会った場所だと思うんですよねー」


川の上に掛かる橋の真ん中で、矢央は懐かしげに呟いた。


以蔵はキョロキョロと辺りを警戒するように見渡して、危険がないかを確認している。


あの時は、永倉等と町に出てはぐれてしまった矢央を坂本が屯所まで連れて行ってくれた。


この川に落ちた二人は川岸で濡れた服を乾かしながら、これからのことを語ったことを思い出す。


「あの時ね、坂本さんは、また必ず会うよって言ったの。 本当にそうなるとは思わなかったなぁ」

矢央の話になど興味がない以蔵は、やはりキョロキョロと落ち着きない。


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