駆け抜けた少女【完】

あそこにいるためには、新選組と共にいたいという自分で探した道を見つけなければ……

でなければ、あの環境に胸が押し潰されてしまいそうだった。

人の死に向き合う覚悟が、今の矢央にはない。


土方には、忘れる強さも必要だと言われた。


永倉には、向き合う覚悟が必要だと言われた。


沖田には、死を背負って生きる辛さを見せられた。


藤堂には、守るという強さを見せられた。


原田には、死を受け入れるための辛さを見せられた。


斉藤には、誠の意味を教えてもらった。


芹沢には、その命をもって死の重さを教わった。


色んなことを見て聞いて知って、今の矢央には戸惑いと後悔しかない。


そんな気持ちでは、彼等といる資格も耐え抜く強さもない。


だから、新選組から離れた。


離れた場所から、彼等とどうしたいのか、自分はどうしたいのかを考えるために。


「命をかけとるのは、新選組だけやないきに。 わしら土佐も……武市さんも、龍馬も、命をかけて、この国のために戦う言いよった。
わしはアホじゃきな、難しい話はよお分からんが、仲間のためなら、この命をかけてもええと思えとっき」


「今は、その人……武市さんは何をしてるの?」


「……武市さんは…わからん。 何処で何をしちょるか分からんっ。 龍馬は、一切教えてくれんぜよ! わしにとって、武市さんは親みたいな兄みたいな存在じゃき。 でも、龍馬は武市さんのとこには帰るなと言った」


口下手な以蔵が、想いをぶちまける姿は必死に見えた。


尊厳し忠義を誓う武市の側に戻りたい以蔵だったが、追われる身になってしまった以蔵は龍馬に匿ってもらいながら、やっとな暮らしを余儀なくされている。



龍馬や以蔵の故郷である土佐では、今や武市や以蔵、土佐勤皇党に関わる人は反逆者として罰せられる立場にいるため、

それを知る龍馬は、友人である以蔵を土佐へは帰したくない想いがあるのだ。


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