駆け抜けた少女【完】

長州は追いやられる存在に成り下がった。

だがしかし………


それもこれまで。 直ぐに我ら長州が天下をとるさ。


桂は、不安そうに眉を垂れる矢央に気付かれぬようにニッと口端を吊り上げた。



「ねぇ……ねぇ? 本当に、何も聞いてない?」

「聞いていないよ。 それとも、長州藩の俺に知られては困ることでもあるのかな?」

「ちょ、長州藩!?」


ブンブンと勢いよく首を振り否定する矢央。


クスッ…。分かり易い子だ。


「なら、あまり追求しないことだよ。 深く入りすぎれば互いに思わぬ苦労をしかねないからね」


思わぬ苦労……。


そうかもしれない。

いつも皆に聞かされていた長州の事。


幕府を敵視する過激派の長州陣に、新選組も手を焼いていた。

土方は常に眉間に皺を寄せ文机に向かい、山崎も常に調査に出向いている。


沖田や永倉にも長州は敵だと、強い言葉で言い聞かされた。


桂が長州藩の者と知って、矢央はさすがに不味いと慌てる。


今は新選組から離れた矢央だが、帰りたい場所はいつだって彼等のいる屯所だ。


彼等がいたからこそ、この時代を今まで生きて来れた。

それだけではなく、彼等と共に過ごす内に仲間意識も芽生えた。


ただ今は、居場所を見失ってしまっただけ。

想いとしては、早く帰りたい。


「その様子だと、俺を敵視しているようだね?」


ニコッと人の良い笑顔。


悪い人なは見えない。


しかし油断はしてはいけないと、矢央の肩に力がこもる。


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