駆け抜けた少女【完】
「……桂さん、こそ」
矢央は警戒を露わにする。
坂本龍馬も新選組にとっては敵なのに、この桂という男は信用していいものか悩んでしまった。
でも助けてくれたし……。
元々人が良く、疑うといった言葉を知らないような矢央だ、常日頃から土方に注意されていた。
『安易に人を信じるな』と。
――――でもなぁ……と、もう一度、目の前の桂に目を向ける。
人柄は良い。
にこにこと笑顔を崩さず、柔らかい口調。
(ただ、タラシそうだけどね)
「敵視はしていないよ。 女子一人にどうにかなるほど間抜けではないからね」
(なんか馬鹿にされてない?)
「ふふっ。 君は、分かりやすいね。 よくそう言われないかな?」
「……言われます」
顔に出やすいと、よくからかわれたものだ。
それは未来でも過去でも同じだった。
「怒らないでくれ。 悪い意味ではないよ。 君は素直で良い子なんだろうと思ってのことさ」
桂は、へらっとおどけてみせる。
この笑みで何人もの女子を落としてきただけに、矢央も気が抜けてしまったようで、
はあ、と、大きく息を吐き背後にいる以蔵の様子を見ることにした。
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