駆け抜けた少女【完】
「私は、確かにあの時……死んでいます」
突拍子もない発言に、誰かが息を呑んだ。
まだ皆が若き日、沖田を庇いお華は死んだ。
確かに死んだ。
沖田は、顔が上げられなかった。
―――己が、少女を殺した。
「ですから、お察しの通り、私は既にこの世には存在してはならない存在です」
「化けて出たっつーことか?」
「いいえ。 私は、どなたも怨んでなんていません。 惣司郎君、だから自分を攻めないでほしいの」
「……っ……」
優しく、傷を癒やそうとしたが、沖田は更に顔を伏せる。
お華は、仕方ないと、話を続けた。
「私には皆さんに話していない力がありました。 人に触れると、それに関わる未来が見えてしまうんです」
だから、己があの日死ぬことも分かっていた。
それ故に、あの日の事で沖田を攻める気などない。
「我が家は代々、未来を見る力を神より授かる宿命にあった。あの日が、私の最後の日と既に受け入れていた……けど、ただ一つ心残りがあった」
それは祖父を亡くした後、行く宛のないお華の世話を嫌な顔一つせずしてくれた近藤家、
そして、そこで暮らした仲間の未来を見てしまったことで、お華はこのまま死に逝くのが唯一の心残りとなった。
「皆さんが京へ上ることも、新選組として活躍することも、皆さんに触れたことが"見えて"しまった。
どのようなお立場にあられても、時代の渦に巻き込まれる方々には、それなりの苦労というものが付きまといます」
お華は敢えて新選組の辿る道を"苦労"と言った。
言い方を間違えてしまえば、彼等に己等の未来が知られてしまうのを避けたいからだ。
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