駆け抜けた少女【完】

「桂だと!? どういう事だ?」

矢央が長州と、しかも新選組が捕まえたがっている桂のもとにいるという情報は、土方だけではなく、

それを先程知ったばかりの永倉と沖田以外は、皆、驚きの顔をした。


「桂は、坂本と深く関わっています。 そして、彼女も関わりを持ち始めている。
それは、新選組にとっては由々しきこと」

「なんということだ。 歳、さすがにこれは不味い」


普段は穏やかな新選組局長近藤もこれに関しては良い顔をしない。


桂といえば、つい最近新選組に間者を紛れ込ませてきた奴だ。

新選組にとっても、幕府にとって放っておけない存在である。


「永倉さん、あなたは、何故そのことを知っておきながら隠すのですか?」

「なっ………」


面食らった永倉は、咄嗟に土方を見やると、その土方は鋭く永倉を睨みつけていた。

何て言えば良いのかと、永倉は下唇をぐっと噛んだ。


「永倉、どういうことだ? お前は知っていたということか?」

「新八さん……」

「新八」


藤堂と原田は、何も語らない永倉を間に挟み不安げに互いに顔を見合わせている。


「隠し立てして、彼女が救われるとでもお思いですか?
どちらにしても、彼女は新選組の掟を知っておきながら、自らあの方々のとこに身を隠しているのですよ」

「お華っ、お前は何がしてぇんだよっ?」


何故か矢央を追い込もうとするお華。

永倉は複雑だった。


あの日、芹沢暗殺の日、お華と最後に交わした言葉がある。


"彼女を守ってあげて下さい"


そう言ったお華が、今何故矢央を追い込むのか、永倉には分からなくなった。


苛立ちを抑える術はなく、ただお華を睨むことしかできない。

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