駆け抜けた少女【完】
「永倉さん、副長の気持ちも察してやってくれないか」
「……わかってるさ」
誰も、矢央やお華を追い詰めたいわけではないが、時代に吹く風は追い風だった。
せめて、誰かが背中を押してやらねばならないと思う。
「永倉さんに、任せたいことがあるのだが宜しいか?」
斎藤は静かに言う。
ドカッと座った永倉は、斎藤を見上げた。
黙っていることを肯定ととり、斎藤は背にしていた奥座敷の襖を叩いた。
スーッと開いた襖の奥にいたのは、観察方の山崎。
「ずっといたのか?」
「はい」
「相変わらず、斎藤も山崎も気配が読めねぇな。 んで、何だってんだ?」
「単刀直入に言うと、最近長州の動きに怪しぃもんを感じます。 間島が関わるであろうことを頭に置き、間島に探りを入れさせてはどうかと」
長州の怪しい動きには、永倉も薄々気付いていた。
暫く黙っていた永倉は、顔を上げると山崎に問う。
「何故、それを俺に言う?」
そう言った話ならば、普通は土方にするはずだろう。
「これは、間島への最後の賭だ」
斎藤の返事に、永倉は首を傾げた。
「間島が迷っているのは、自分の成すべきことが見いだせぬからであろう。 ならば、そのきっかけくらいくれてやるのは悪いことではない」
「……せやけど、今は敵地にいる間島を捕らえることを優先されたのは副長です」
「つまり、内密に動くっつーわけか」
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